英国市場への進出を検討している企業の人事担当者および個人申請者にとって、Global Business Mobility(GBM)制度における UK Expansion Worker と Senior or Specialist Worker(以下「Senior Worker」)は、いずれも重要な選択肢です。 両ルートはいずれも「海外グループ企業の中核人材を英国へ派遣する」という共通点がありますが、英国法人の取引状況、スポンサー構造、滞在可能期間、給与水準、長期的な定住戦略などの点で大きく異なるため、初期段階で実務的な比較・検討を行うことが極めて重要です。
両ルートともスポンサーシップは必須か?
UK Expansion Worker と Senior Worker のどちらのルートも、スポンサー・ライセンスを保有する英国法人を前提としており、スポンサーのいない個人による単独申請は認められていません。 Expansion Worker では、まだ英国で実際の取引を開始していない海外企業が、英国支店または子会社を設立するために英国法人をスポンサーとして登録する必要があります。 一方、Senior Worker では、すでに英国で取引を行っている関連英国法人が A レーティングのスポンサー・ライセンスを保有していなければなりません。
そのため人事部としては、「どの英国法人がスポンサーとしての役割を果たすのか」「その法人がどの種類の GBM スポンサー・ライセンスを保有しているか、あるいは新規取得すべきか」を最初に整理することが重要です。
実務上、スポンサーシップの構造はどのように異なるか?
UK Expansion Worker スポンサー・ライセンスは「英国では未だ取引をしていない法人」を前提としており、申請段階で英国におけるフットプリント(Companies House 登録、賃貸借契約書等)と、海外本社側の実質的な営業実績・英国展開計画を立証する必要があります。 多くの場合、当初は一種の暫定的なレーティングが付与され、発行可能な Certificate of Sponsorship(CoS)の数が制限されるため、派遣人数やタイミングを慎重に計画しなければなりません。
これに対し Senior Worker スポンサー・ライセンスは、すでに英国で通常の営業活動を行っているグループ内英国法人に付与されます。 一旦 A レーティングを取得すると、より安定した CoS 枠を前提とし、記録保存・変更事項の報告など通常の GBM スポンサー義務の下で運用されます。
Certificate of Sponsorship はどのように発行され、どのような要件があるか?
両ルートとも、各申請者は有効な Certificate of Sponsorship(CoS)の発行を受ける必要があります。 CoS には、申請者の氏名、職務内容、SOC コード、給与、勤務場所、予定開始日などが記載されていなければなりません。 Expansion Worker の CoS は、しばしば初期制限付きのスポンサー・ライセンスの下で発行されるため、人事部による人員配置と時期の綿密な調整が求められます。
Senior Worker の CoS については、申請者が原則として直近 12 か月以上、同一企業グループ内の海外法人で勤務していること(または high earner としての例外適用)が明記されている必要があります。 人事担当者は社内 HR データと CoS 記載内容の一致を管理し、個人申請者は CoS が実際のオファー条件や職務内容を正確に反映しているか必ず確認すべきです。
両ルートとも英国国内でのビザ切替(スイッチング)は可能か?
両ビザとも、一定の要件を満たす場合には英国国内の他のビザ・カテゴリーからのスイッチングが認められていますが、標準訪問ビザなど一部短期カテゴリーからの切替えは認められていません。 実務的には、長期的な定住まで視野に入れている場合、「最初にどのビザで入国し、いつ Skilled Worker などの定住可能なルートへ切り替えるか」を、人事・法務とともにロードマップとして設計することが望ましいと言えます。
特に Expansion Worker の場合、支店・子会社の設立が目的であるため、海外から直接入国するケースが多く、一定期間後に Skilled Worker などのルートへ移行する戦略がよく用いられています。
申請者には当該企業での事前勤務経験が必要か?
UK Expansion Worker と Senior Worker の両ルートでは、一般的に申請者が同一企業グループ内の海外法人で最低 12 か月以上勤務している既存社員であることが求められます。 これは、両ビザが外部人材の採用ではなく「グループ内人事異動」を前提とする GBM ルートであることを示しており、Skilled Worker ルートとの大きな違いです。
もっとも、年収が一定額以上の high earner に該当する場合には、この 12 か月要件が免除されることもあります。 人事部は対象者の勤続期間および給与水準を基に適格性を判断し、個人申請者は雇用契約書、給与明細、HR レターなど勤務・給与を裏付ける書類を事前に準備することが望ましいでしょう。
両ビザとも最低技能レベル要件があるか?
両ルートにおいてスポンサーされる職種は、Home Office が定める eligible occupation list に含まれている必要があり、一般的に RQF レベル 6 相当の技能レベルが要求されます。 つまり、学士レベルの専門職・管理職相当の職務が想定されており、単純・低技能の職務については、どちらのルートでもスポンサーすることはできません。
人事部は、実際の職務内容が選択した SOC コードの skill level 要件を満たしているか慎重に照合する必要がありますし、個人は自身の業務が十分に専門職・管理職レベルに該当するかを確認する必要があります。
給与要件はどのように異なるか?
両ルートとも、「一般的な最低給与基準」と「該当 SOC コードの going rate」の双方を満たす必要があり、そのうち高い方を満たさなければなりません。 UK Expansion Worker では、英国拠点を立ち上げ、マーケット開拓を担うミッド〜シニアレベルの人材を想定した水準で一般給与基準が設定されています。
一方 Senior Worker では、一般的な最低給与基準はより高く設定されており、年収が high earner のしきい値を超える場合には、前述の 12 か月海外勤務要件が緩和されるなどのメリットがあります。 そのため、高額報酬のシニアマネジャーやスペシャリストを派遣するには特に適したルートといえます。 人事担当者は、提示する給与パッケージが一般基準・going rate の双方を満たしているか検証し、個人はオファーされた年収が規定に適合しているか確認すべきです。
両ルートとも英語要件は課されるか?
GBM の UK Expansion Worker および Senior Worker ルートには、直接的な定住を目的としたルートではないという性格上、正式な英語能力要件(IELTS 等)は設けられていません。 これは、企業・個人双方にとって初期段階の負担軽減につながりますが、将来的に Skilled Worker など定住可能なルートに切り替える予定であれば、その時点で所定の英語要件を満たす必要がある点を中長期計画に織り込んでおくべきです。
財政(メンテナンス)要件はどのように適用されるか?
両ビザとも、原則として申請者は一定額(例:1,270 ポンド以上)を 28 日以上連続して保有していることを示すことで maintenance 要件を満たさなければならず、同伴家族がいる場合には追加の資金が必要となります。 ただし、Senior Worker については A レーティング・スポンサーが CoS 上で maintenance を証明するオプションを選択でき、その場合は申請者が個人口座の残高証明を提出する必要はありません。
一方、UK Expansion Worker ではスポンサーによる maintenance 認証が利用できないとされており、申請者本人が所定の資金を保有していることを証明する必要があります。 人事部は会社方針やコスト負担を踏まえ、maintenance をどこまでサポートするかを検討し、個人は自分の申請にどの方式が適用されるのか必ず確認する必要があります。
両ルートとも永住権(ILR)へ直接つながるか?
UK Expansion Worker と Senior Worker は、いずれも Global Business Mobility の中で「一時的な赴任」を目的としたルートに分類されており、このビザのみで長期間滞在しても直接的には英国の永住権(Indefinite Leave to Remain, ILR)取得にはつながりません。 英国での定住を目指す場合には、一定期間 GBM ビザで勤務した後、Skilled Worker などの定住可能ルートに切り替え、そのうえで別途 5 年間の居住要件など ILR の条件を満たす必要があります。
したがって、人事部は重要人材の中長期的な滞在・定着戦略を人材ポートフォリオと合わせて検討し、個人は自らのキャリアや生活設計と整合させて移行のタイミングを設計することが求められます。
英国での最大滞在期間はどのくらいか?
Expansion Worker ルートでは、初回許可と延長を合わせた総滞在期間に比較的短い上限が設定されており、GBM および旧 Intra‑Company カテゴリー全体での累積滞在に対して「5 年/6 年ルール」のような上限規定が適用されます。 一方 Senior Worker では、一般的な申請者には同様に 5 年/6 年ルールが適用されますが、high earner の場合は 10 年のうち最大 9 年まで滞在可能とする優遇が設けられています。
人事担当者は、複数回の赴任や延長を行う際に、対象者の GBM/Intra‑Company カテゴリーでの累積滞在期間をモニタリングし、上限を超えないよう管理する必要があります。 個人申請者も、将来の他国赴任や本国帰任の可能性を含めて、自身の長期的なモビリティ・プランと整合性を取ることが重要です。
両ビザとも配偶者および子どもを帯同できるか?
両ルートとも、主申請者の配偶者(または要件を満たすパートナー)および 18 歳未満の子どもは扶養家族として同時申請または合流申請が可能です。 しかし、扶養家族の人数に応じてビザ申請料、Immigration Health Surcharge(IHS)、maintenance 要件が大幅に増加するため、家族帯同による総コストは相当な規模になることがあります。
企業側は、ビザ費用や IHS の全額または一部を負担する場合、総人件費への影響を把握することが重要であり、個人は生活費・教育費などを含めた総合的な資金計画を慎重に検討する必要があります。
UK Expansion Worker と Senior Worker のうち、どちらが自社・自分により適しているか?
総じて言えば、まだ英国で本格的な営業活動を開始しておらず、コア人材を派遣して英国支店・子会社を設立し市場開拓を行う段階にある企業には、UK Expansion Worker ルートが構造的によく適合します。 これに対し、すでに英国に稼働中の法人が存在し、当該法人にシニアマネジャーやスペシャリストを一定期間派遣したい場合には、より高い給与基準や長期滞在オプション、high earner に対する優遇などを備えた Senior Worker ルートの方が戦略的に有利となるケースが多いと言えます。
したがって、選択にあたっての主な判断軸は、「英国におけるグループの現状ステージ(未進出/立ち上げ段階か、すでに営業中か)」「派遣者の職位・給与水準」「将来的に定住ルートへ移行する現実的な計画があるかどうか」の 3 点です。
結論 – 自社のビジネス戦略に最も合致する GBM ルートはどれか?
UK Expansion Worker と Senior Worker は、いずれもグループ内人材移動のためのスポンサー型ビザという共通点を持ちながらも、英国法人の取引状況、給与水準、スポンサー・ライセンスの構造、滞在可能期間、そして長期的な定住戦略といった点で異なるビジネス・シナリオを対象としています。 そのため、人事部や個人申請者は「条件が易しいビザはどれか」という観点だけではなく、自社の英国における現状、グループ全体の構造、報酬ポリシー、人材運用計画、そして本人のキャリア・定住意向を総合的に踏まえたうえで、Expansion Worker と Senior Worker のどちらが企業と個人双方に最大のメリットをもたらすかを設計する必要があります。
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